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歴史記述の「空白」?―ライブラリーワークからわかったこと―(地域研究コラム②)

更新日:2022年2月19日

 辻本侑生



 上池袋に関する地域研究は、当初の計画では地域のみなさまに郷土史に関するインタビューを行うことを想定していた。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響により、対面でインタビューを行うことは難しい状況が続いている。こうした状況の中でも地域の歴史を追いかけていくために、既に上池袋について書かれた文献を丁寧に収集する作業を進めて行った。


郷土史文献の例(辻本所蔵のもの)


 作業を進めていく中でわかったことは、上池袋周辺の歴史について書かれた文献が極めて少ないということである。私たちは豊島区立中央図書館、豊島区立上池袋図書館、豊島区立郷土資料館などで文献調査を進めたが、上池袋について1冊丸々を割いて記述している本は管見の限り見つけることができなかった。また、『豊島区史』や『豊島風土記』といった公的に出版された郷土資料をみても、上池袋に関する記述は、他の区内の地域に比べて大幅に少ないと言わざるを得なかった。現在の豊島区立郷土資料館の常設展示においても、上池袋がどのような地域であるかについての情報は多くない。


 こうした、いわば歴史記述の「空白」が生じている理由は、上池袋が豊島区の中でも北区や板橋区との区界に近い、周縁部に位置していることがひとつ考えられる。また、第1回コラムでも述べたように、1932年に西巣鴨町から豊島区に編入されて以降、急速に人口の増加した上池袋では、豊島区編入以前の地区単位でまとまって歴史を振り返り、郷土史を編纂する機会が結果的に設けられなかったのではないだろうか。


 地域研究を進める上で、文献資料が少なく、かつインタビューも出来ないという難しい状況に陥ってしまった私たちであるが、歴史記述が少ないということは、逆に言えば丁寧に実証的な調査研究を進めて記録を残せば、貴重な郷土資料になりうるということでもある。こうした中で、上池袋の地域の歴史的変化を知る数少ない手がかりとして注目されるのが、「地図」である。地図の中には、住宅地図のようにある場所にどのような店があったのかを示す客観的なものもあれば、子どもが書いた地図のように、地域で暮らす人びとがどのように地域を認識しているかを示す主観的なものもあり(いわゆる「メンタルマップ」)、いずれにせよ地域研究において極めて重要な資料である。


 私たちは文献収集作業を進める中で、1970年代以降の住宅地図のほか、戦前の火災保険特殊地図、そして地域の小学校の創立記念誌に掲載された手書きの地図など、いくつかの地図を手に入れることができた。次回のコラムでは、こうした地図からどのような地域の歴史を読み取ることができるのか、まとめてみたい。


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