2023年3月12日(日)、これまでの地域研究とコミュニティ活動について報告し、検討する会をオンラインで開催しました。活動拠点である豊島区・上池袋についての調査内容について話し、さらに、自分たちの生活や生存においてこの地域研究の活動が、論文や学会でのアウトプットの活動とは違った意義を持つことについても言語化しました。聴いてくださったみなさん、ありがとうございました。
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【企画概要】
・現代民俗学会第67回研究会(オンラインでの開催)
・イベントタイトル「生活と探究の民俗学:上池袋・木賃アパートから考える」
・現代民俗学会とラボラトリ文鳥との共催
・発表者4名、ゲストディスカッサント1名、オーディエンス約20名、
【発表内容】
◆「探究の場としての『木賃アパート』の歴史的背景」
・上池袋には、かつては「堀之内」という地名で、いまでも木賃アパートが多く残っている
・池袋第一小学校の創立40記念誌や豊島区の民俗資料調査の報告を参照
・20世紀前半、工場の町だったこの地域には、銭湯やバー、食堂があり、仕事のあとの風景が想像できる
・民俗学だけでなく建築史研究の観点でも、こうした市井のひとに目を向けたい
・戦後に広まった「プライバシー」という言葉は、他方でお財布に優しい共同生活のメリットとのジレンマを引き起こした
・木賃アパートの経営を勧めるハウツー本からは、間取りの工夫だけでなく居住者との接し方についてもアドバイスが書かれており、個々人の大家さんたちのレベルで新しい生活の価値観に対応する術が模索されていたことがわかる
◆「『木賃アパート』を拠点とする探究と対話の実践」
・ラボラトリ文鳥という団体名で運営する、「探求→究する家」というシェアスペースでの活動について、その理念と実践を発表した
・「痛み」についての勉強会を例に、大学でも私生活でも実現しにくい、安心感のある探究と対話の営みについて紹介。勉強会では、身近で深堀しがいのあるワーディングで話題を設定することを心がけ、読むのは短い引用集にとどめ、話すことと書くことの両方を生かしたコミュニケーション方法を実践した
・生活と研究が分断され固定化されてしまわないように、場所、トピック、身振りの3つの点において、両者の境界線を揺るがし続ける活動を続けたい
【開催を終えて】
告知時での趣旨説明文には、「生活者であることと研究者であることとを誠実に両立する方法は、ひとりひとりが発明するべき」生き方であること、そして「生活者として研究することを模索するわたしたちが『木賃』に投影してきた期待のありようを振り返りながら[中略]人文学が日常に接続する瞬間を探し求めたい」と書きました。
いま現在の自分のありかたについての課題意識と密接に結びついているこの活動について、整理して説明したり論じたりすることはとても困難なことで、2年半の活動のあいだ繰り返し挑戦してもどかしさを感じてきた点だったので、この研究会を目指して、言語化しにくい自分たちの活動について改めてしっかりと向き合い、手探りで言葉を探すことを自分たちに課す機会となったのは有意義なことでした。
ゲストディスカッサントのかたが炭住(炭鉱住宅)の町のお話をしてくださったことによって、上池袋での活動とは時代も地域も違うケースにもかかわらず、共同生活のなかに否応無しに宿る「不快さ」が共通点として浮かび上がりました。
「不快さ」を避けたり逃げたりすることが難しい立場にある人は、その場で自己変容と適用を迫られます。「なんでこんな目に」「わざわざここまでしなければいけないのか」といった愚痴めいた疑問は、自分の恥部のように思えて他人には話しずらいけれど、一方で、立場の弱いひとが一歩引いて考えて自分を大切にする道を見つけるための、ちいさなきっかけともなりえます。恥ずかしいこと、情けないこと、嫌がられるようなこと、弱音や苛立ちを、「探究心」へと翻訳する場こそ、活動開始当初から漠然と思い描いてきたものでした。
自分たちの活動について言葉を開き、反応をもらい再発見があったことは、団体としては収穫でしたが、この活動を相対化するような、より大きな議論への展開するための論点提起は、次の機会の課題として残っています。とりわけ、企画段階からかかげている学術界との繋がり/距離、あるいは「生活者」であることと「研究者」であることのアイデンティティの一致/不一致については、議論のポイントを明快にできないまま消化不良になってしまった面もあります。シェアスペースを運営したり利用したりする面々の、ライフステージの変化や、協働する仲間の顔ぶれの変化によって、問題意識を言い表すための言葉についても繰り返し検討していくことになりそうです。
詳しい内容については、冊子にまとめています。(この活動記録冊子の紹介はこちら)
ご興味のあるかたは郵送できますので、ご連絡ください。
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